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 小説系特許

 小説系特許という言葉を知ったのは、パトリスニュースメールマガジン 2007/12/25号でのことだ。 (http://www.patolis.co.jp/reporting/patolisnews/)

 文字通り、小説のような特許明細書のことだ。

 自説などを自費出版すれば100万円以上かかるものが、特許出願を発表(出版)の場として使うと16000円(特許印紙代)で済んでしまうと綴る。

 それで実際に、女優への賛美を記しているという明細書を読んでみると、富司純子(ふじじゅんこ 旧芸名:藤純子)さんへのファンレターをそのまま公開しており、まさに私小説だ。
 ( かんたん特許検索 (http://kantan.nexp.jp/) へのリンク 特許出願2005-29878 )
 
特許公報より
特許公開 2005-143294公報の一部


 特許公報で、小説?や歌手への賛美が読めるとはどういうことか。

 それは、出願人が特許願(とっきょねがい)として特許庁に提出(送信)されたものは、内容はどうあれ出願から1年半(ぴったり1年半では無い)で公開されるのだ。[特許法64条]

 一応、方式審査によって、書類の形式を満たし、かつ公序良俗に反しないかどうかはチェックされる。

 これが公開公報(こうかいこうほう)と呼ばれるものであり、審査官による審査(特許になるものかどうか)が行われていない情報である。
 (審査してもらうには、別途高額な特許審査請求[特許法48条の3]が必要になる。)

 したがって、審査されれば拒絶されるであろうことが明白なものが数多くある。

 それでも特許出願の情報として、おそらくは半永久的に記録される。
 (例えば今でも特許制度ができた当時の公報を特許庁の端末などで読むことができる。)

 また、英語に翻訳されて、国際調査の対象資料ともなる。

 つまり、特許出願を行えば、全世界の人に向けて主義主張を発信することができることになる。

 それで特許にならなくても良いから、自分の思いを社会に発表し、または後生に残す手段として、特許出願が利用されているということだ。

 もちろん出願人自身は、大まじめに特許を取得するつもりで書いている明細書なのだとは思う。

 だから、国も尊重して公開しているのだともと言える。

 とにかく荒唐無稽なものがある。

 それだけ読んでも面白い。 

 それらは、既定の特許分類の外にあるので、分類不能となる。

 この分類不能ばかりをIPDL(特許電子図書館)で検索して、すぐに読むことができることもまたすごい。

 関心がある人は、検索項目選択でIPCを選び 000000/00 と入力して検索して見れば良い。
  (http://www7.ipdl.inpit.go.jp/Tokujitu/tjkta.ipdl?N0000=108
  (分類不能は、2009.04.10現在で、273件)

 さらに、昨年からは、IPDLは明細書の全文を検索できるようになったので、興味のある単語そのもを入れて探すこともできる。
 
 膨大な文書情報なので、どんな言葉でもヒット(検索で文献件数が表示される)しそうだ。

 例: 山口百恵(2件)、タモリ(717件)、木村拓哉(11件)、UFO(3468件)、宇宙人(229件)、タイムマシン(66件)。
 
 大半は、まともな出願明細書です。(部分一致や、実施例の一部などで使われている。)
 
 これだけ文書として多彩になると、立派に「思想または感情を創作的に表現」[著作権法2条1項1号]しているので、特許明細書であっても、そこには著作物としての著作権が働く。

 だから公開公報には、著作物の登録、発表の効果もあるという、穿(うが)った考えもできる。
 
 法に触れるわけでもない。

 しかし、それらは直接には「産業の発達に寄与する」[特許法1条]という法目的の外にあると言わざるを得ないので、濫用は慎みたい。

 もっともそのような例が増えれば、公序良俗(公の秩序)を乱すとして、公開公報から外されることになろう。
 (公序良俗違反で全文不掲載の特許公報例: 特許公開2007-233427

 特許は、表現の体裁よりも、その中に流れるアイデア(工夫)の産物といえるので、明細書は細かく定型化して、質問事項に答えれば自動的に作成されるようになれば良いと思う。

 そう、その考え(アイデア)の表現が特許だ。

 (2009.04.10)
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