2/16(2008年)の新聞に出ていた記事を読んで気になった。
その内容は、新しい技術の紹介であり、硬貨(コイン)が本物であるかどうかを、音で判断しようとするものである。
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2008.02.16 朝日新聞(夕)
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具体的にはコインを真鍮(しんちゅう)の固まりに当てたときに、発生した音を分析して、このコインが本物かどうかを判断するのだ。
この記事だけを読むと、今までになかった技術の紹介のように思える。
一般の読者にはそう読めると思う。
しかし、新技術に興味を持っている自分には、この技術は以前に聞いたことがあると思ったのだ。
つまり、新技術では無いのではないかという疑問だ。
それでIPDLで簡単に調べてみたら、それに近い技術がすでに出願され、公開されていることを知ったのだ。
ここで感じたのは、開発者はIPDLを使って先願(すでにされている特許出願)の調査をしたのだろうかという疑問だ。
すでに誰かが先に開発し出願していれば、いかに独自に開発した技術であっても、それは後発技術となり、開発者本人であっても自由に実施することができなくなる。
ましてや、先に開発されている技術が特許出願であれば、それが登録された場合には、たとえ独自開発者であっても特許侵害を問われ、後発者として開発の中止を余儀なくされる。
さらには、特許料の支払いを請求されることになるのだ。
新聞記事中には、自動販売機などへの応用も考えられるとの記載があるので、新規技術(今までに無い技術)と考えているのではないかと思われる。
(しかし、おそらくは、先願技術調査は行われていて、開発の核は、貨幣に音を当てるという基本的部分ではなく、発生した音の新規な解析技術ではないかとも思う。)
IPDLは実に良くできた検索システムである。
しかも無料で使用できるのであるから、これを使わない手はない。
ここで、この技術の実際の検索手順を記してみる。
検索では、難しいことは無い。
思いついた用語を入れれば、それで良いのだ。
この場合には、「貨幣」と「音」という語を含む特許出願を探せば、同様の技術が見つかるのではないかと想像してみた。
IPDL内のテキスト検索で「貨幣」と「音」の用語を両方含むものを検索すると、96件の先願のリストがあらわれた。
このリストに表れた公開特許を全件読んでも良いのだが、発明の名称だけでも、概要を知ることができる。
特許公開2000-251108 「貨幣または有価証券等の識別方法およびこれらを識別する識別装置」が、コインの音を分析して、本物かどうかを見分ける技術であることがわかる。
また「コイン」と「音響」という語で検索すれば、特許公表H8-511371「コイン評価方法」も同様の技術であることがわかる。
インターネットで20分程度、しかもお茶の間で調べただけで、同様技術がすでに特許出願された技術であることが解ったのである。
これだけの情報を簡単に得られるデータベースは、本来ならば、有料で提供されているのがあたりまえだと思う。
だが、検索させる用語を一語一句入力したのは、出願者自身とも言え、さらには、出願料を支払っているのだから、ある意味公共の財産とも言えるのだ。
それを独立行政法人が扱うのであるから、無料であってもおかしくはないのだろう。
我々は、すばらしい検索システム(先人の技術情報)を持っているのだ。
だから、もし新規な技術を思いついたと感じたときには、IPDLをまず調べることをおすすめする。
言葉で検索できないときは、分類で調べることもできる。
それで過去に同様技術がなかったら、それは特許になる可能性のある技術なのであるから、大事にすることです。
IPDLで詳細に特許調査を行えば、他人の開発している技術動向がわかります。
その結果、類似技術の無い発明(パイオニア発明)であれば、多種多様な角度から出願して権利範囲を広げることができますし、同様技術があった場合には、より詳細な効果を主張するように開発の方向性を絞ることができます。
新規技術は、簡単に発表してはいけません。
公開するときは特許出願しておきましょう。
(この記述は、新聞に公開された技術(記事)の新規性が無いということを主張するものではありません。 特許性の有無(技術的範囲)は記事だけではわからないからです。 新聞記事は、単にIPDLの有用性を説明する際の具体的一技術例として引用したに過ぎません。)
以下の図は、 IPDL 特許電子図書館を実際に使用して、検索した際の画像を 引用したものです。
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特許電子図書館 (IPDL)のトップページに入る。
http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl
ここで「特許・実用新案検索」を選ぶ。
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次に (3)「公報テキスト検索」を選ぶ。
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検索画面があらわれる。
検索項目を、「要約+請求の範囲」として、
1行目に検索用語として「貨幣」を、
2行目には検索用語として「音」を入れる。
これにより、公報中の要約または請求の範囲の中に、「貨幣」と「音」という文字が両方含まれる公報を探し出すことができます。
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検索ボタンをクリックすると、検索結果が出ます。
ここでは、96件となりました。
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リストを表示させると、公報番号と発明の名称が表示されます。
順に発明の名称を見てゆくと、特許公開2000-251108 「貨幣または有価証券等の識別方法およびこれらを識別する識別装置」が、目につきました。
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そこで、これをクリックすると、内容が表示されます。
検索に使用した用語、「貨幣」と、「音」が赤字になっているので、判別が容易です。
【課 題】 貨幣 または有価証券等に対して音 を発生させ、この音 によって貨幣 または有価証券等の真贋を識別する識別方法および装置
とありますので、まさに新聞記事の技術と同様です。
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検索の用語は、多種多様に考えられます。
たとえば、1行目に「貨幣」「硬貨」「コイン」と入れ、
2行目には「音」
3行目に「鑑別」「識別」「鑑定」といった入れ方もできます。
こうすると、公報に以下のような文字が記されているものを検索できます。
1: 「貨幣」と「音」と「鑑別」
2: 「貨幣」と「音」と「識別」
3: 「貨幣」と「音」と「鑑定」
4: 「硬貨」と「音」と「鑑別」
5: 「硬貨」と「音」と「識別」
6: 「硬貨」と「音」と「鑑定」
7: 「コイン」と「音」と「鑑別」
8: 「コイン」と「音」と「識別」
9: 「コイン」と「音」と「鑑定」
結果に表れる件数に応じて、多すぎるときは絞り、少ないときは広げます。
特許調査をインターネットで行う場合の注意 >
Amazon 書籍
(1)特許・実用新案・意匠・商標の調査とパテントマップ作成の手引―IPDL(特許電子図書館)はここまで使える
(2)
特許調査」の基礎と応用―特許電子図書館で調査する
2011.05.01追加
(3)特許調査入門―サーチャーが教えるIPDLガイド
この書籍は、IPDL(特許電子図書館)で、ここまで調査できるのだということを教えてくれます。
また特許法は、法制度を解説する書籍で勉強することが常道ですが、当書籍は特許調査から特許法を知ることができる、いわば知識を外堀から埋めるに適した本です。
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