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 切り餅特許を調べてみた。


 切り餅のメーカーが、同業他社の切り餅を特許侵害であるとして、提訴した。

 毎日jpで知った。切り餅:「切り込みは特許」 越後製菓が「サトウ」提訴

 写真も出ていて、餅に入れた切り込みが、技術的特徴(特許の本質)のようだ。

 非常に単純な構造なので、何が問題なのだろうかと調べてみた。

 特許庁のIPDLで、調べることができる。

 すると、意外にもどちらの製品も特許を取得していることがわかった。

 それで、被告側のコメントに余裕が感じられたわけだ。

 被告側コメント:「狭い業界の中で提訴され、裁判になったことは大変残念。越後製菓の特許は尊重しており、侵害しているつもりはない。司法に判断を委ねたい」毎日jpより

 確かに似てはいるのだが、違いがあって、その違いによって現れる効果も違うから、両方に特許権が付与されたのだと言える。

 似た特許が両者に付与されたとはどういうことか。
 

 原告の特許:第3817255号公開 2005-323614、第4111382号(公開2004-147598)

 被告の特許:第3620045号(公開 2005-034079


 特許出願には、【特許請求の範囲】を記載する必要があり、この内容が、特許権の範囲を
 決定する。
 
 その内容に違いがあるはずだ。

 原告:特許請求の範囲(概略): 餅の横方向に切り込みをつけた。
    作用:水蒸気による内圧を横に逃がす。
    効果:餅を均一に焼き、食感、美観に優れる。
 
切り餅特許の一部

特許第3817255号:公開特許公報2005-323614の一部




 被告:特許請求の範囲(概略) 餅の上面、下面、及び側面に切り込みを入れた。
    作用:切れ込みから水蒸気による内圧を逃がす。 焼いた後に切り込みが残る。
    効果:整った外観で焼き上がり、分割が容易。
切り餅特許公報の一部

特許第3620045号:公開特許公報2005-34079の一部


 切り込みという、おおまかな構造、及び作用、効果は似ており、被告の特許は原告の特許に付け足したもののように見える。

 つまり、原告の特許の方が範囲が広く、被告の切り餅に、原告の特許の特徴である横方向の切り込みがあるのは事実であるのだから、被告特許は原告の特許を利用した改良技術であり、原告の基本特許の侵害であるという構図だ。

 もし、被告側の技術が特許でなければそう言えるだろう。

 しかし被告は、原告の公開公報が発行される前に出願している。

  原告特許出願 2002-318601 (2002/10/31) 公開 2004-147598 (2004/5/27)
     分割出願 2005-223022 (2005/08/01) 公開 2005-323614 (2001/1/24) (2005/11/24)

  被告特許出願 2003-275876 (2003/07/17) 公開 2005-034079 (2005/02/10)


 つまり、原告の技術(切り込みを入れるということ)を知らない。

 被告は独自に餅の切り込み技術を開発しているのだ。

 それでも、被告技術は、上位概念である原告の技術に含まれるということになるはずだが、決定的なことが原告の特許公報に記載されている。

原告公開2004-147598 公報の一部
 
 ・小片餅体の平坦頂面や載置底面ではなく上側表面部の側周表面に、周方向に

 ・表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。

 ・本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、周方向に複数配置してほぼ環状に配置したり、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成する


 原告は、餅の上面、下面への切り込みを、わざわざ除外しているのである。

 そして、被告特許では、上面、下面への切り込みが必須であり、原告が除外した部分のみを権利範囲にしている。

 これは、つまり原告と、被告とが権利範囲の棲み分けをしたことになる。

 すなわち被告に非は無いということに成らざるをえないだろう。

 原告が、自ら除外した範囲を、後で主張することは、「禁反言の法理」により許されないということだ。

 この事件は、互いに相手の出願内容を知らず、互いが否定した部分を互いに利点と考えたという、珍しい事例ではないだろうか。

 2009.04.27


 (注:以上の対象特許番号は想像であり、 実際の訴訟内容は不明です。 この記載は、単に餅の特許が2社にあったという点を元に想定した私見です。)

(注:特許の鑑定業務は、弁理士でなければできません。 弁理士法4条1項

 
タイムスタンプ 2009(H21)4.27

 上の記述内容を図示すると、以下のようになります。

 原告特許と被告特許の権利範囲(技術的範囲)
特許範囲を示す図  餅へ切り込みを入れる特許には、横への切り込み(四角形)と、面への切り込み(円形)とが考えられる。

 切り込みが、横方向と、面方向との両方にある場合は、四角形と、円形との重なった部分(緑色)になる。
 

権利の棲み分けを示す図
 原告は、意識的に緑の部分を除外し、被告は原告の除外した部分を特許請求範囲とした。

 すなわち、原告と被告との特許は、互いに抵触(侵害)しない。

 つまり権利範囲の棲み分けとなる。
 追加2010.01.10 (タイムマーク)
 
この訴え(切り餅訴訟)に対する地裁判決
 
 請求を棄却しています。

平成21(ワ)7718 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
平成22年11月30日 東京地方裁判所 
(裁判所ホームページへのリンク)
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101203173939.pdf

2011.09.08 本ページに質問メールをいただきました。
一部を紹介させていただき、ご回答させていただきます。

矢澤行政書士事務所御中
初めてメールを差し上げます。
長岡市に勤務している事もあり、越後製菓の切り餅特許について勉強会をしております。
最近、貴社ホームページの首記の記事を見たのですが、以下の点を確認させて頂きたくお願いしたい次第です。

1.『原告公開2004-147598 公報の一部に「小片餅体の平坦頂面や載置底面ではなく上側表面部の側周表面に、周方向に切り込みを入れる。」との記述などが有り、原告は餅の上面、下面への切り込みを、わざわざ除外しているのである。』とコメントされていますが、添付されている当該特許公報の“請求項1”には「角形の餅や丸形の餅などの小片餅体の載置低面では無く上側表面部に、周方向にーーー。」と記述されており、上面への切り込みを除外しておりません。
そちらでコメントされているのは“請求項2”の内容です。コメントと添付資料が相応していない思われますが何か別の事情があるのでしょうか。

2.原告の公開2004-147598と公開 2005-323614は記述体裁などが少し変わっているのみで発明
内容は同一のものと思われます。何故、別特許となっているのかご教示頂ければ幸甚です。

 お答えです。
 お問い合わせありがとうございます。
 知財啓蒙になればとの軽い気持ちで作成したページに対し、真摯な質問をいただき、説明の必要を感じました。
ホームページは、わかりやすい例で説明したため、細部は異なる点があるかもしれません。

1.公開2004-147598 は、丸餅などの場合を含んでおり、その後審査され特許4111382号になっています。 
 特許4111382号の請求項は、
   【請求項1】
 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又
は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側
面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は
溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周
方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に
形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側
が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化し
た中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制
するように構成したことを特徴とする餅。
【請求項2】
 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又
は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側
面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を
設けたことを特徴とする請求項1記載の餅。

 となっておりまして、平坦上面を除外すると読める記載があります。

2.公開 2004-147598は、元特許出願 2002-318601、登録 4111382です。

 この出願の中から、その後3つの特許が分割出願され、それぞれ異なる請求範囲で特許されています。
 文言が同じなのは、とりあえず分割したためと思われます。
 その後の、審査請求時などに補正しようとしたものでしょう。

元特許出願 2002-318601からの分割出願
A出願 2005-223022
公開 2005-323614
登録 3817255

B出願 2006-088563
公開 2006-174849
登録 4510772

C出願 2006-090684
公開 2004-97063
登録 4636616


 今回、高裁で原告勝訴となる逆転判決が出そうですが、文言の解釈が相当に問題になったかと思われます。
  一審で、原告は上面下面を除外していないと審査官に説明して特許になった旨の主張をしていますが、その旨を請求範囲に記載せず、かえって除外する文言を記載している以上、被告は権利侵害の範囲外だと考えます。
 しかも、側面以外の上下面に切れ目を入れた明確な図面を記載していないのですから、技術範囲(特許権の範囲)を規定(把握)する上で請求範囲の文言が占める割合は大です。

 原告特許の側面に対する溝が、特許の主眼である旨も理解はできますが、被告特許の引用例(審査官が参考にした先出願(実用公開昭和56-134191)を見ると、「外側面に表面積を拡大する切れ目」が開示されています。
請求範囲 図面 
 実用公開昭和56-134191より、請求範囲と図面を引用
 
 したがって、原告特許は側面への溝という広範な権利範囲を有すると主張することはできず、厳格に請求範囲記載の特許範囲にあると考えます。
 おそらく原告としては当初から、上面、下面への切れ目を否定していなかったのかもしれません。
 除外したのは、引用例(先願)を回避するための言葉のあやだった可能性もあります。
 しかし、特許請求しなかったのですから、それを主張することはできないのが普通だと思います。



 また、被告特許3620045は、
【請求項1】
上面,下面,および側面に切り込みを入れ、前記上面と下面には十字の切り込みを入れ、前記側面には横方向の切り込みを入れるとともに、前記十字の切り込みは、切り餅の長辺と略平行な切り込みと、切り餅の短辺と略平行な切り込みからなり、前記長辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの30〜40%とし、前記短辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの20〜30%としたことを特徴とする切り餅。

 となっており、非常に権利範囲を狭く限定し、極特定の範囲にしたために顕著な効果が生じ、特許になったものと考えます。
 
 被告は、特許権が成立したので、その範囲で安心して特許技術を実施していたわけであり、その後に別の特許権の侵害と認められ、高額な賠償金のほか製品の製造中止と製造装置の破棄が認められるのであれば、ますます特許は不安定なものであると国民に広く認識される懸念を覚えます。
 被告特許出願が、もとより原告の特許範囲に抵触するのであれば、初めから特許とならないと(拒絶)されているべきであり、そうであれば被告の実施(製造販売)は現状とは異なった経緯になっていたと思われます。
 その意味(被告を翻弄した)で、高裁判決は被告のみならず、特許庁において特許審査を行う審査官に対し、審査の基準をどうすべきかの影響を与えたものと思われ、特許審査の難しさを再認識させられます。
 

 他社でも、切り餅の特許は出願されており、この例では、餅(もち)の側面には斜めの切れ込みが入っています。
 この場合でも「切れ込みは斜めでも良いので、権利侵害である」とされる可能性があるということになってしまうかもしれません。
他社の切り餅特許出願例 他社特許出願例 「切り餅」
特開2010-094065
出願2008.10.15
平面方形の餅体の上面及び下面並びに対向する二側面へ切り込みを入れた切り餅において、上面及び下面の中央部に側面と平行に切り込みを入れ、前記二側面の切り込みは斜の切り込みを交叉させるように入れたことを特徴とする切り餅。

2012.03.23 メールをいただきました。 
返信が届きませんでしたので、ここでお答えさせていただきます。

「 切り餅特許について
今回の特許そのものに疑問 なぜなら私の子供のころ父からお餅を焼くとき
刃物で切り込みを付けて焼くことを極普通に教わりました
特許の法則とか規則とかは知識不足ですが こんなのが 特許として在ったのが不思議でした
他にもあるような気がします
許可の認識がどこにあるのか解りませんが  独り言です 」



 お答え:
お問い合わせありがとうございます。
> 刃物で切り込みを付けて焼くことを極普通に教わりました
その情報を知れば、きっと被告側は喜ぶかと思います。

ただし、それを証明する書物等が見つからなかったのでしょう。
実際、特許権が付与された後に、証拠によって特許を取り消される(無効になる)例は、多数あります。
逆に言えば、あたり前のことでも、証拠がなければ特許として独占できることがあるということでもあります。

そのような特許は、強い権利となる可能性があると思います。
  

All Rights Reserved, Copyright © Yazawa Kiyoshi 2009-2011


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