知財ニュース 2010 (ちざいニュース)

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商標「声優検定」は、登録されたものの無効とされる。

商標「声優検定」は、第5047898号として、平成19年5月に登録されました。
 しかし、平成21年1月に、「声優検定」は、役務(サービス)の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるので、商標法3条1項3号に違反するとして、無効審判請求され特許庁は、これを登録無効にしました。
 
 そこで、商標権者は、知財高裁に無効審決の取り消しを求め 平成21(行ケ)10351 審決取消請求事件として判決がでました。(H22年5月19日)
 知財高裁は、特許庁の判断を取り消すには理由が無いとして、無効が維持されました。
 
 商標権者側は、「声優検定」は声優の適正能力を検定するものだけではなく、声優に対する知識を問うクイズとしての検定もあると主張。
 
 裁判官は、
  「指定商品又は指定役務について使用した場合に,これに接する需要者又は
  取引者がどのように認識し理解するかが重要なのであって,あくまでも指
  定商品又は指定役務との関係において考慮されなければならず,指定商品
  又は指定役務を離れて当該商標の意義を考察すべきではない。」
  
  「ここでいう「需要者又は取引者」は,本件商標の指定役務であ
 る「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実
 施」に係る需要者又は取引者ということになるから,本件商標が上記役務
 について使用された場合には,前述のとおり,「声優の能力の検定(試験)」
 の意味合いが容易に認識し理解され,「声優の適性能力の検定」という役
 務が提供されるであろうと認識されるのは必定である。」
 として、無効を維持
 
 これは、以下の判例による判断を踏襲したものです。
 「役務の質,内容等を表示する記述的標章は,商取引上,適切な表示
 として何人もこれを使用する必要があり,かつ,何人もその使用を欲するも
 のであるから,特定の一私人にその独占使用を認めるべきではない。本件商
 標は,その指定役務の質,内容を端的に表示記述するものであって,声優の
 検定にかかわる者にとっては,取引に際して必要かつ適切な表示であり,こ
 れを特定人に独占使用させることは公益上も適切でないことが明らかである
 から,本件商標の登録を維持することは,産業の発達に寄与し,併せて需要
 者の利益を保護するという商標法の目的に反するものである(最高裁昭和5
 3年(行ツ)第129号
昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)。」
 
 
 確かに、声優の能力検定を主催したい場合には、「声優検定」と記載するのは普通ですから、「声優検定」と記載しただけで、これを商標権違反だ、犯罪だとするには無理があるでしょう。
 もっとも、声優の検定試験に使用された結果、「声優検定」は特定の団体が主催するものであるという著名性が生ずれば、また登録がされる可能性もあります。
 
 登録無効はまだ確定ではありません。 上告もできます。
 
 商標権者は、ロゴ入りでも出願しています。
 これは知財戦略の一つです。
 声優検定商標出願 声優検定 商標出願2008-100448より商標を引用

 
 

シーサー商標を取り消す理由は無い。

(商標登録取消決定取消請求事件)

 沖縄の土産物店で売られるTシャツの登録商標に対し、ドイツ国の著名なプーマ社が登録取り消しを求めています。
 確かに一見すると似ていますので、取り消しを申し立てたい気持ちはわかります。 
 しかし、日本の特許庁では登録取り消しを
2度決定したにもかかわらず、裁判所では取り消しには理由が無いとして、2度とも特許庁の決定を取り消しています。
 商標権の意外な強さ、グローバル企業の商標戦略などを垣間見ることができます。
 
 
 (1)登録商標SHI-SA(シーサー)は、PUMA(ピューマ、プーマ)商標に外観が似ているなどとして一度は登録異議申し立てが認められ取り消された。  
  
 (2)取消審決(登録を取り消すとする特許庁判断)の取消を訴えたところ認められた。 
     H20(行ケ)10311  H21.02.10 知財高裁
 
 (3)特許庁は再度、登録の取消決定をした。(登録を取り消す。)
 
 (4)再度知財高裁で争われ、プーマ社も参加しパロディである、フリーライドであるなどと訴えたが、取り消しには理由が無いと再度判断され、登録は生き残った。
 平成21年(行ケ)第10404号 平成22年7月12日 知財高裁
 
 
 H20(行ケ)10311
 本件商標と引用商標1とは,外観においても観念・称呼においても異なるものであり,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は引用商標1に類似するものではなく,決定は商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものである。


登録商標第5040036号, Tシャツ、帽子    第3324304号
シーサーの図形商標
判決より引用

 
プーマの図形商標
判決より引用


 参考:プーマ柄のTシャツ(ヤフーショッピングから)

プーマpuma Tシャツ 80232408 濃紺 【Tシャツ】 シーサー:1歳~LLサイズ
プーマpuma Tシャツ 80232408 濃紺
 
【Tシャツ】 シーサー:1歳~LLサイズ
プーマ様の絵とSHISAの文字が読める







 小説を絶版、回収

 アスキーメディアワークスは2010.06.08日、小説「俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長」電撃文庫を絶版、回収にした。

 井上堅二著「バカとテストと召喚獣」ファミ通文庫と表現が類似する部分が複数あったため。  著者も参考にしたことを認めている。 発行部数4万5千 (読売新聞2010.06.09)

俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長 (電撃文庫)
俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長 (電撃文庫)
バカとテストと召喚獣 (ファミ通文庫)
バカとテストと召喚獣 (ファミ通文庫)

 作者によるお詫び記事(http://asciimw.jp/info/apology/20100608.php
 
 読者からの通報で発覚したとのことですが、書籍の場合には剽窃(ひょうせつ)、盗用は明確になりやすいと言えます。

 その後、類似性を確かめようと、両者を読み比べましたが、似ている点が発見できませんでした。 「俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長」の内容は、読みやすく楽しめる作品であり、ストーリーの依拠は感じられません。

 内容の部分的類似を紹介するブログによると。 類似したのは バカとテストと召喚獣 2 であり、表現の類似する箇所が多かったようです。

バカとテストと召喚獣 2 (ファミ通文庫)
バカとテストと召喚獣 2 (ファミ通文庫)

 


登録商標「イルガッチェフェ」は、地名ではない。

平成22年3月29日 平成21年(行ケ)第10229号 無効審決取消請求事件
 
 コーヒーに関する登録商標「イルガッチェフェ」を、取り消されたエチオピア国が、
 「イルガッチェフェ」は産地名では無く、品質を示す銘柄名であるとして、取消審決の取消(商標の復活)を求めた。
 
 裁判所は、エチオピア国側の主張を認め、無効審決を取り消した。
 
 聞いたことの無い商標は、産地かどうかなどの判断が難しいかと思います。
 日本でも、中国で「青森」「松坂」などの産地が商標登録されないように運動していますが、日本から中国側に申請した場合には、逆に産地名にすぎないとして登録されないかもしれません。
 この件では、地名かどうかも問題になっています。
 商標は簡単なようで、難しい側面があります。
 審査官は頭を悩ますことが多いかと思います。

商標無効審判
 第2007-890026
 
 請求人 社団法人全日本コーヒー協会
 登録第4955562号商標、「イルガッチェフェ」
 第30類 指定商品「コーヒー、コーヒー豆」
 エチオピア連邦民主共和国

 イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)は、産地地名であるので、第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
 

 



 

ドキュメンタリー小説の著作物性

 

H22年1月29日(東京地裁)
 平成20年(ワ)第1586号 著作権侵害差止等請求反訴事件


 ドキュメンタリー作家が、県知事でもある被告の書籍を著作権侵害で訴えた。
 裁判所は2行だけに複製(侵害)を認め、賠償金は2行分0.4%とした。
 
 ただし、知財高裁における控訴審(判決H22.07.15)で、著作権侵害でないとされた。
 
 色々な資料を集めて、エピソードとして創作しても、事実から誰でも想到するような事項であれば、著作権は認められないことになります。
 (例:主人公が、ある年月一人で海外へ行っていたという事実があった場合に、「望郷の念で涙することがしばしばあった。」というエピソードを創作しても、事実から誰でも類推できることとして、創作性が認められず、著作権は無いということになります。)
 

原告主張  被告の書籍や行為は原告書籍の複製権又は翻案権の侵害、氏名表示権及び同一性保持権の侵害である。 
 被告書籍の印刷、発行、頒布の停止、賠償金695万8075円及び利息を請求する。
被告主張  歴史的事実を基礎とする著作物において,歴史的事実そのもの,エピソードの取捨選択,すなわち,歴史的事実を取り上げたこと自体により著作権侵害となることはあり得ない。
 著作物が「事実を発掘した」先人の「汗」の上に成り立っている場合であっても,かかる「汗」の成果である「歴史的事実」そのものについては,速やかに公有に帰するのであり,一定期間,著作権法により保護されるのは,歴史的事実に関する「思想又は感情の創作的な表現」部分のみである。
裁判所判断  被告は、書籍の218頁の11から12行を削除しなければ、印刷、発行、頒布してはならない。
 12万円及び利息の支払い。

 判示事項(著作権理解の参考となる裁判官判断)

ドキュメンタリー作品の著作物性
(事実の著述に対する著作権判断)
 叙述された表現のうち,表現上の創作性を有する部分のみが著作権法の保護の対象となるものであり,素材である歴史的事実そのものや特定の歴史的事実を取捨選択したことそれ自体には著作権法の保護が及ぶものではないものと解される。
複製または翻案の判断基準  原告書籍記述部分の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告書籍記述部分において,原告書籍記述部分における創作的表現を再製したかどうか,あるいは,原告書籍記述部分の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。
推測・推論結果の著作物性  推測あるいは推論の結論それ自体は,著作権法上の保護の対象とはいえないアイデアにすぎず,著作権法上保護されるのは,そのような推測の結果を導き出す過程等も含めた記述における具体的表現である。

 被告書籍  原告書籍
破天荒力──
箱根に命を吹き込んだ「奇妙人」たち

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箱根富士屋ホテル物語(増補版)
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