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 特許権の力が落ちている。


 かつて特許権と言えば、非常に強い権利であるという印象がありました。

 特許明細書の請求範囲の文言(もんごん)には、権利書や契約書の強さを越え、一つの法律の条文であるような権威が感じられました。

 特許権侵害であると、裁判所に訴え出れば、損害賠償、製造差止、製造物、設備廃棄、等、そこまでやるかの非情な判決も出たものです。

 特許の構成として書かれていないものでさえ、均等物(同様のもの)であるとして、侵害を認めたものです。

 あのドクター中松(中松義郎氏)の書いた本の中にも、巨大な米国会社の製品に対し、一個人が税関に輸入差止を認めさせた話が出てきます。
 
特許証にある図特許証にある紋章特許証にある図
特許証にある図、紋章

 ところが、このところ、特許に力がありません。

 つまり、特許権を振りかざし、侵害者に対して、「製造販売を止めなさい」「特許料を支払え」と言っても、無視されたり、逆に「特許になるような技術ではない」と、無効審判請求(特許になるのはおかしいので無効にすべきと、特許庁に訴える)を起こされたりします。

 それは昔からある侵害者の取る対処の一つなのですが、特許権者が、それならばと裁判所に訴えた場合に、なんと8割が負けてしまうというのです。
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 (2009-03-23 (月)NHKラジオ、元特許庁長官 荒井寿光さんのお話)
 銀行から金を借りて→特許技術で事業を興す→すると他者が参入→訴える→裁判所が認めない→侵害し得。
 特許庁で認められ、裁判所で勝たないと保護されない。
 しかし、訴えた者の2割しか勝てない状況。
 8割負けるのでは、法治国家でない。
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 (日経新聞2009.01.12)特許紛争.司法・特許庁2本立てのゆがみ
 「裁判での紛争は割が合わない」
 判決で勝訴しても→後で無効審判(新証拠)を起こされ→特許庁の審決で特許が無効に→勝訴判決は再審で逆転敗訴
 侵害訴訟は2007年度156件で、3年前より3割減った。
 無効になることを恐れて訴訟を敬遠している例も少なくない。
 訴訟での権利者敗訴率は常に8割程度。
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 以前は無効審判で無効にならない限り、特許権は有効であるとして、侵害者に対し賠償させる判決が出たものです。

 それが、裁判所においても特許性(特許権の有無)を認めることができるようになったため、下級審を戒めることでその存在を顕現するかのごとく、特許無効の判断をするようになったのです。

 これでは、裁判を起こす意味がありません。

 権利(特許権)が非常に弱く、不安定なものになっているわけです。

 なぜこうなったのか、最大の要因は、特許法改正で「特許異議制度」が無くなったためでしょう。

 以前は、数月間の期間を置き、「これを特許するが異議のあるものは申し立てよ」という制度があったのです。

 だから各社の特許担当は、ライバル社の公報をウオッチ(Watch:見張る)して、特許登録させないようにすることが仕事の一つだったでしょう。

 それ(異議申立制度)が無くなり、審査官と一般人の二段階であった審査が、審査官のみの判断になったため、どうしても(先行技術等の)見逃しがあるということでしょう。

 異議申立制度を無くしたことには、早く権利を確定したいという思惑があったわけですが、結果から見ると、迅速が拙速になってしまった感が拭えません。

 実用新案を無審査で登録するようになったことも、間接的に特許権の力を弱めているような気がします。
 (以前は特許出願されず実用新案登録されていた小発明が、特許出願に移ったため、特許に高度性がなくなったような印象を与えた。)

 ただし、法改正は、日本の特殊事情で、外圧に影響されていることが大きいでしょう。

 今後、制度の見直しで、たとえば特許異議を復活させる、特許有効性の判断を、特許庁、裁判所の二本立てとせず、どちらかにする等の変更が行われるでしょう。

 しかし、一度信頼性が落ちると、なかなか復活しないのは世間の常です。

 長年かけて培った信用も一日で失墜する例は挙げるまでもないでしょう。
 
 特許戦略には、特許を出さないことも含まれ、また不正競争防止法、著作権法といった、特許以外の知的財産権を有効活用することが今後の流れとなるような気がしています。

 特許権に代表される、思想に対する権利が工業所有権、産業財産権、知的財産権と、名を変え範囲が広がってきたように、人により創造された、見えない財産は、さらに幅広く、何重にも保護されるようになるかと思います。

 つまり、特許で守れなくても、別の手段があるということに気づかされるということです。

 今後は「知的財産権」から、「知的資産」へ、という言葉の変化で保護の対象がさらに拡大されてゆくかと思います。
 2009.04.28

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