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 原作者は強い.  ( 歌手の森さんが憤慨していましたが。 )

手の森進一さんが、有名な持ち歌の「おふくろさん」を歌えなくなるという事件はマスコミで大きく取り上げられました。

 作者(作詞者)から、勝手にせりふを加えたのはけしからん、断りもなく歌うな、ということのようです。

 森さんとしては、今回問題となったNHKの紅白歌合戦以外でも歌っているし、有名な作詞家、作曲家を通して加えたものなのであり、CDまで出ている。

 何を今更ということのようです。

 これに対して作詞者は、知らなかったというのです。

 最近初めて、せりふ入りの「おふくろさん」を知り、良い内容ではあるが、自分の作詞したイメージ(心像)と違い、断り無く歌うのは許せないということのようです。
演ずる歌手

 ここで森さんは、当初受けて立つと息巻きました。

 しかし原作者の著作権は非常に強く認められており、二次的利用者 (原作を演じたり、脚色したり) は原作者の許諾が必要です。

 勝手に改変することは、同一性保持権(著作物を勝手に変えられない権利)の侵害になります。

(同一性保持権)
著作権法 第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。



 原作者の権利が強い例として有名なところで、漫画のキャンデイキャンデイ事件があります。

「H9(ワ)19444東京地. H11(ネ)1602東京高
原作者に絵の著作権. 漫画家の主張退ける. 人気漫画キャンテ゛イキャンテ゛イの著作権が漫画家だけにあるのか.ストーリーを考えた原作者にもあるのかが争われた民事訴訟. 漫画は原作原稿を翻案して創作された二次的著作物とし.原作者にも著作権があると判決. 絵だけとりあげて漫画家の専権に属するとは言えない. シールキャラクター.」

 このときには、純粋な文章である漫画の原作者に対し、原作を漫画化した絵の著作権をも認めました。 もちろん描いた漫画家にも著作権はあるのですが、原作の翻案という二次的著作物として権利を認めただけでした。

ですから、描いた漫画家本人でも自由に他人に使用権を与えるといったことができません。

 原作者の許諾が必要ということになります。

先に著作権がある場合には、意匠権、商標権も制限されます。

商標法 第二十九条  商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。
 
意匠法 第二十六条 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。


ここで森さんの場合に戻りますが、「おふくろさんは、もう僕の歌ですから」と発言しています。

 これは心情と(私が歌って有名にさせたという)しては理解でき、また森さん自身には実演家としての著作権(著作隣接権)が生じています。

 しかし、これも原作者の権利を使用しているという構図下にあります。

 したがって、「おふくろさん」を歌うには原作者の許諾が必要です。

 しかし作詞家は、「おくふろさん」の改変を問題にしたにもかかわらず、すべての他の曲も歌わせないなどと主張したようです。

 当面、森さんは、この作詞家の歌を歌わず、時間をかけて許諾を得ようとするようです。

 それは大人の対応として適切なのでしょうが、もともと作詞家は歌詞の許諾をJASRACに委託しているわけですから、少なくとも他の曲や、改変前の「おふくろさん」を歌うことには問題が無いはずです。

 もし訴訟ということになれば、著作権者といえど権利の濫用と判断されるかもしれません。

 また、そもそも歌い出しの前に追加したことが、同一性保持権の侵害になるかどうかも疑義があると思います。

 しかし感情を込めて歌う陰に争いがあっては、聴く側も素直に感動できないかもしれません。

 今回の騒動は、著作権を考えさせられる良い機会だったと思います。


(2007.04.21)

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