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 米国特許制度が先願主義へ移行すると、先使用権が重要に 



 
      米国の特許制度が変わったと話題になっています。
 

     バマ大統領がサイン(署名)したことで、ついに先発明主義が、先願主義になったと言われています。
オバマ大統領が特許法改正に署名  President Obama signed the American Invents Act September 16 at Thomas Jefferson High School http://www.uspto.gov/
 オバマ大統領が改正特許法に署名
 米国特許商標局のトップページより写真の一部を引用
 新特許法は、2011年9月16に成立し. 改正点は150ページ以上にわたるそうです。
 一応、先発明主義(せんはつめいしゅぎ)は廃止されたわけですが、これが定着するには数年かかりそうです。
 判例が固まるのはもっと先でしょうから、しばらくは世界的に見ると変則的な先願主義となりそうです。 *4
 
 A.I.P.P.Iという冊子(社団法人 日本国際知的財産保護協会 www.aippi.or.jp 発行)に、米国改正特許法概説という論説記事があり、概要を知りました。

  特許虚偽表示の損害賠償は実損額とする。 (存続期間満了表示での一般市民やトロールによる虚偽表示訴訟を減らす。 改正前は懲罰的損害賠償請求ができた。*1

  優先審査制度の導入
 など末節的な改正もあったことも知りました。

  ベストモード開示要件を特許権侵害主張に対する抗弁として使えなくなった。という項目もあり、これは先願主義に伴い、不完全な出願が予想されるためでしょうか。
 しかし、仮出願制度があって、とりあえず出願しておいて、後でゆっくり本出願できるのですから、他に理由があるのかもしれません。

先願主義と言われるために、なされた大きな変更は、
  先発明主義の廃止と、先行技術の定義条項の追加でしょう。
 先発明主義の元で、発明者を特定するために必要であった手続、
 インターフェアレンス*2、と宣誓供述書*3は廃止
 
 先行技術の定義
 第102条(a)(1)
 次に掲げる場合は、何人も特許を受けることができない。
  すでに特許があった、刊行物記載、公然使用
 第102条(a)(2)
  同一発明について、他の出願が特許または公開されれば特許付与されない。
 
 先行技術の定義は日本の特許法にも通ずる、先願主義の規定ですね。

 ただし、グレースピリオド(猶予期間)*4という制度が残っており、出願前に公開してしまった発明でも、1年間は出願(猶予)でき、この間に他人による公開や、出願があっても拒絶されないという有利な制度です。

 これは先願主義の国では無い制度です。
 仮出願にも適用されるので、公開1年後に仮出願し、その1年後に本出願すれば、2年間も猶予があることになります。
 本出願していないのに、保護されるのですから、この間は先発明主義が残ると言えます。
  グレースピリオド、仮出願は研究、利用の価値がありそうです。

 先願主義に移行するにあたって、今までになかったことを追加したという項目では、
 「先使用による抗弁」(The prior art defense)*7が大きいでしょう。
 今までは、発明を秘密に実施していて特許出願しなくても、先発明で守れたと言えたわけですが、今後は他者が特許権を取得した場合、秘密実施者(他者の特許出願前から特許技術を使っていたが、出願はしていない)が特許権侵害者になってしまうからです。
 
 先使用権(せんしようけん)は、日本においては先願主義の弊害(特許にならないものまで出願して開示(公開)しすぎ)を是正するために、特許庁が自ら「特許出願しないでも、先使用権を使える場合がありますよ。」*5と表明しています。
 
 米国では、先願主義に移行することで、発明者、権利者の確定に対する疑義は減るでしょうが、先使用に対する訴訟が増えることになるかと思われます。

 米国の法改正により、先使用権という概念が先願主義には必要な制度であると顕在化したことで、すでに先願主義の日本でも、その戦略性が評価されて先使用権の利用が活発化するのではないでしょうか。
 
 
 
 
   
      
 先使用権が認められるための関門
(参考:A.I.P.P.I 2011.10
vol56. p2-p10)
   
商業利用
または販売
しているか?
(commercial use or sale )
 
 No
Yes
相手特許の優先日の少なくとも1年前からか?
 No
Yes
相手特許の猶予期間開始の少なくとも1年前からか?
 No
Yes
相手特許の発明者に無関係な商業利用又は販売か?
 No
Yes
先使用権を放棄していない。
 No
Yes
高等教育機関の技術に基づく場合、政府資金で実用化したか?
 No
Yes
先使用権を事業の移転以外で譲渡していない。
 No
Yes
継続的に使用しているか?
 No
Yes
先使用権を認める
   
   
先使用権を認めない
 
 先使用権
 簡単に言うと、特許権の侵害だから、やめろ、損害賠償せよ。と言われた場合に、こっちはあなたの特許出願前から秘密に実施していたとして、賠償も、使用料も払わずに、そのまま実施できる権利です。 強固な防護壁のようなものですね。
 
     
 

*1特許マーキング違反訴訟:米特許法第292条(35 U.S.C. 292False marking.)、 500ドルを越えない額の罰金を規定。2009年の連邦巡回区控訴審判決で、それぞれの対象物件ごとに最大500ドルの損害賠償義務を規定。これにより、特許マーキング訴訟が急増し、特許マーキングトロール(false marking troll)と呼ばれる特許訴訟のプロ が問題となっていた。 NBL(商事法務) 2011.11.15 p51

*2インターフェアランス(interference):同一発明を請求(クレーム)した複数者間の先後関係を決定する手続

*3宣誓供述書:引用例よりも先に発明を完成させたことを述べる手続

*4実際に変更されるのはH25年(2013年)4月から。優先権(仮出願)でH24(2012年)年4月から影響。グレースピリオド(grace period、猶予期間)でH23(2011年)年4月から影響。
  猶予期間「発明者が有効な出願日からさかのぼって1年以内に行う発明内容発表は、当該発明出願の先行技術に当たらない」という例外規定

*5先使用権ガイドライン  経済産業省
 先使用権制度ガイドライン(事例集)の公表について(PDF形式:202KB)
   
*6
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*7 ビジネスパテントにおいては、例外的に「先使用権」が認められていた。


 
 

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