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 中国の高速鉄道の特許出願から思う。 

2011,08,15 
の中の動きは激しい。
 すでに中国での高速鉄道の事故が旧聞になってしまった。(YouTube

 この事故は、知的財産にかかわる示唆を多く含んでいる。
 技術を導入し、あるいは移転することの難しさ、求められる慎重さ、基礎技術・ノウハウの重要性などだ。
 知的財産という言葉には、知識、知恵、経験、挑戦、夢、アイデア、表現など、およそ人が生きて営むあらゆる事柄が凝縮されている。

 それらの、一部を権利制度として見えるようにしたものが知的財産権とされ、譲渡・移転・許諾などの対象になるのだ。

 中国は、新高速鉄道を導入するに当たって、各国の技術を比較検討しただろう。
そして、おそらくは最高と思われるものだけを集め、独自の技術としたと考えただろう。
 それは間違いではないと思う。 
 良い部分を集めれば最高のものとなるだろうと考えても。

 だが、それで時速350kmもの最高速度ですぐに運航したことは拙速でしょう。
 ある技術、特に人を運搬する装置には、最大限の安全性と、信頼性と慎重さが求められる。

 より高速な人間運搬装置である航空機に採用される技術を見ればそれが良くわかる。
 航空機(旅客機)は決して最先端の技術や、最高性能を求めていない。
 現在飛行している航空機の主流は10年も20年も前に設計されたものだ。
 そして、その当時の確立した技術での設計だから、採用した技術は設計開始時よりさらに何年も前のものが使われている。
 
 故障、イコール墜落、イコール全員死亡では絶対に困るわけである。 
 したがって、航空機に採用する技術は、壊れない技術ではなく、壊れることが解っている技術ということになる。
 意味がわかりにくいかもしれない。
 断崖絶壁に橋があるときに、絶対に壊れませんという超合金で作った橋よりも、3年2ケ月から4年1ヶ月で確実に落ちますという木製の橋の方が信用できるということだ。
 後者の橋を2年ごとに掛け替えれば良いのだから。

 そういうこと(いつ壊れるかが予想できる方が信頼できるという考え)も、長年の事故の経験と、どうすればよいのかという試行錯誤の結果から品質管理学とも言うべき学問が生まれ、育まれた結果だと思う。
 それを単に、良いものを集めれば高性能になるという概念だけでは、バランスが取れない。

 中国は、新幹線技術を特許出願すると言い、日本のマスコミでは噴飯ものだと報道している。
 しかし、それは当たらない。
 そもそもマスコミは特許制度を理解していない、ということの表明になる。
 新聞記事
 「中国南車」が高速鉄道車両「CRH380A」の技術特許を米国で申請する方針である。とする記事
 2011.06.24読売新聞夕刊 4版2面記事より写真で一部引用

 特許は、今までにない技術についてされるものだ。
 しかも、進歩性(簡単には考えつかない技術)が要求される。
 つまり特許されるには特許要件を満たさなければならないということだ。
 
 だから、日本などから得たという技術をいくら特許出願しても、特許要件を満たさず拒絶される。
 ものまねでは特許されないという、あたりまえのことだ。

 そんなことに目くじら立てるのは大人げない。
 仮に特許になったとしても、使わない(使う必要が無い)ような技術であるので、日本側にとってはなんの影響もない。
 もし技術開発等に影響がある特許が成立したとすれば、それは本来日本側でも出願しておかなければならなかった技術であるわけであり、それを特許化した中国の技術は日本どころか人類にとっても賞賛に値する技術であるということになる。

 ブラックボックス(特許出願しない秘密技術)があばかれ、ノウハウ部分が出願されたとすれば、ある程度の影響があるかもしれない。
 しかしそれはそれで、良い教訓となる。
 
 中国は、知的財産の財産的価値に、ようやく目覚めたのだ。(注1)
 斬新な技術もどんどん現実化される。

 日本は一歩先を行かなければ、すぐに追い越される。
 他社の動向ばかりを考えて、身近な他国の動向を見逃さないようにしたいものだ。
 
 
 
 http://www.chinahush.com/より引用
 2010.07.31付け中国技術を紹介する記事
 高速道路の上をバスが走る。
 斬新なアイデアを実現していると思う。
 

注1;
H22.12.3 奈良で開催されたアジア特許庁シンポジウムでの講演録より。

中国の知的財産権保護-理解しておくべき事実. 中国国家知識産権局長 田 力普
 当時の中国では、8億の人口のうち、ほんのわずか数十人を除いて、知的財産権に対する認識は、私と同じだったと思います。 ゼロに等しく、知識と財産を一緒に結びつけるという概念は全くありませんでした。 逆に、当時の人々は一般に、知識は自由に無償で広まり使われるものだと考えており、どんな知識も社会全体、さらには全世界で共有されるべきで、費用の徴収が認められるということは理解しがたいことでした。 そこで、1970年代に「知的財産権」とういう語が中国語に翻訳されましたが、2000年になって初めて、中国の数億を数える学生が、一般に用いている「新華字典」に正式に収録されました。
 
 2011年1-9月の特許申請は260128件で前年同期比21.2%増加
 2011年1-8月の商標登録申請は68.4万件 前年同期比31%の増加
 年間では100万件超えの見込み。
 中国政府は知的財産権保護を大変重視しています。
 
  パテント誌. 日本弁理士会 2011年2月号 P109-111より引用


 
 
 
 

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2011.8.21WOWOWで放映開始 知的財産の攻防を描くドラマ「下町ロケット」のテレビ放映シーンより写真で引用
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