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 著作権法の弊害を緩和する、大改正が近い。


 作権は、知的財産権の中でも、非常に保護の厚い権利だと言える。  

 何しろ、普通の場合、創作のときに発生し、死後も50年間も存続するのだ。
 しかも、著作権は申請や、審査、登録などの手続、登録料も不要で、作ったときにただちに権利が発生する。

 さらには、国内だけでなく条約を締結している全世界の国にまで効力がある。
 
 これはすごいことだ。 

 本人(創作者)の意識にないものでも、著作権が発生している可能性がある。
 たとえば、新聞広告の裏に、書き殴った文章や、幼稚な絵でも立派に著作権が働く。
なにげなく取ったスナップ写真(注1)も、結婚式でしたスピーチも、掲示板への書き込み(注2)も立派な著作物となり得る。



フジテレビホームページ
http://www.fujitv.co.jp/index.html
から引用

 有名な、フジテレビのシンンボルマーク。
 目を簡単に線画で書いた、いわゆる目玉マークだ。
 この単純な絵(マーク)を巡って著作権の帰属を争った裁判もある。
 原告は、3歳の子供が書いた目の絵に赤点を入れて、葉書で応募したものが、盗用されたと主張したような内容であった。
 こんなに単純なものでも、立派に権利になり、係争になるという例だ。

 東京高裁 平成8年(ネ)第4383号 著作者実名登録抹消登録請求控訴事件
 (原審・平成7年(ワ)第6276号 平成8年8月30日判決)

 控訴審判決文 日本ユニ著作権センターへのリンク
 http://www.translan.com/jucc/precedent-1997-08-28.htm
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 昨今は、特にインターネットで著作権の問題が多発して、その強さが知られてくると、日本人の特性からか、個人情報保護法の例のように、過剰に反応する弊害もある。

 先日行われた「著作権フォーラム2008」でも、講演者からそのような著作権の弊害が話されていた。
  (主催:日本行政書士会連合会 http://www.gyosei.or.jp/


-----講演(文化庁長官官房著作権課 山下和茂氏)での筆者メモ-----
 新たなビジネスを始めようとすると、著作権が足かせになる例が多い。
 実際には問題にならなくても、コンプライアンス(法令遵守)に徹しようとすると、萎縮してしまう。
 問題かどうか、良く分からないような場合でも、弁護士など専門家に意見を求めると、「法的には著作権侵害の可能性があります。」という答えになる。
 すると、せっかく新ビジネスとして芽吹こうとしても。「危ない仕事には手をださない方が良い。 やめましょう。」となってしまう。
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 解るような気がする、なにしろ食品の賞味期限が切れる切れない、いや消費期限だなどと、実質的に問題ない(品質低下が無い)ようなものでも、問題として騒がれる世の中になっているのだから。

 それで諸外国では普通に実現している、インターネットでのテレビ番組配信なども実現しないという。

 現状は、著作権が強い物であるということが認識されてきており、
 それはそれで大事なことではあるのだが、少し恐れすぎている段階かもしれない。
 恐れには、無理解もあるように思う。

 無理解というより、法律のあいまいさを補完する例(判例)が少ないために、理解しようがない段階かもしれない。
 また、許諾の取りようが無いという場合もある。

 本来、侵害かもしれない、危ないなと思ったら、許諾(有償、無償を問わず)を取れば違法ではない。
 ところが著作権者がわからないと、許諾の取りようが無い。 
 それだけでビジネスが頓挫してしまう。

 それで、日本版フェアユース(社会通念に照らし、違法ではないと考えられる著作物の無許諾使用)という概念を取り入れようとしている。

 ただし、問題もあるようだ。
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米国ではフェアユースを採用するが、訴訟社会の中で、もともと多数の著作権侵害訴訟の判決があり、これらを確認的に規定したものがフェアユースであるという経緯がある。 日本で採用しようとすると、そもそも判決が少ないので、拡大解釈されてしまい、何でもフェアユースであるとされる恐れがある。(山下和茂氏講演より 筆者メモ)
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 そのようななかで先般、多くはない判決の一つとして、「ブログの盗用事件」(注3)が判示された。
 これは著作権の無理解(不明確)の例でもあり、フェアユースの基準になりそうだ。
 原告は、自分のブログに載せた裁判傍聴記を、他人のブログで使われ、著作権侵害を主張したが、判決で、傍聴記は「事実の伝達にすぎない」ので、著作物でないとされた。

 普通に考えると、相当な時間をかけて作成した文章には、著作権が働きそうだ。
 しかし「事実の伝達にすぎない」場合には著作物に該当しないと、著作権法にある。(注4)
  どんなに一生懸命に調べて、長時間を要して作成したとしても、事実の伝達にすぎない部分だけで構成すれば、それは著作物では無く、したがって著作権は行使できない。
 これには、各種のデータやリストなども該当する。

 これらは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」第2条、という著作物(著作権)の大前提を満たしていないとも言える。
 
 また著作権法では、「情を知つて」という言葉が多数で出てくる。
 つまり、知らなかった場合には、著作権侵害とみなされない。

 このため、著作権は、特許権や商標権とは異なり、親告罪「告訴がなければ公訴を提起することができない。」とされている。

 つまり、訴えがなければ、警察は動けないということだ。
 もともと侵害かどうかを問う前に、著作物であるかどうかをも判断する必要があるのだから、簡単には違法とは言えない。

 それでも現行法を厳格に適用すれば、インターネットの検索サービスはすべて違法ということになってしまう。(キャッシュ [一時的蓄積データ] が、複製物であり、これが送信可能な状態に置かれるため。)

 こうやって書いていても、著作権法の矛盾点や不明点が多々浮かんでくる。

 そんな世論の動きを察知し、次期国会には著作権法の改正を盛り込みたいとのことだ。
 これが通れば、昭和45年以来の大改正となるとのことだ。

 その改正が、著作権法の目的である、「文化の発展に寄与する」のであれば、大いに期待したい。

  2008.09.28


(注1)
スナップ写真にも著作権.無断掲載の書籍.出版差止命令.東京地裁.一般人が日常的な場面で無造作に撮影した家族のスナップ写真には創作性が無いとの主張に対し.構図やシャッターチャンスによって創作性を認めることができると指摘..差止は行き過ぎだとの主張に対し掲載部分を削除すれば出版は可能だとした.(読売新聞2006.12.22)

原審:平成18年12月21日
平成18年(ワ)第5007号出版差止等請求事件
全文(裁判所へのリンク)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070110084853.pdf

控訴審:平成19年5月31日
平成19年(ネ)第10003号出版差止等請求控訴事件
全文(裁判所へのリンク)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070606151958.pdf



(注2)
H14(ネ)2887. H14.10.29
ホームページ上の掲示板への投稿文書に著作物性が認められた..創作性の程度については.高度のものとして解釈すると保護の対象を不当に限定し.必要な程度の判断も判断者によって恣意的になる..要件は厳格に解釈すべきでなく.むしろ表現者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りるという程度に緩やかに解釈し.具体的には決まり文句による時候の挨拶など創作性が無いことが明らかである場合を除いては著作物性を認める方向で判断するのが相当
全文(裁判所へのリンク)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A449BACCE5E8055A49256CA60029B142.pdf

(注3)
H20(ネ)10009. H20.07.17.
原告は、刑事訴訟事件の傍聴の結果をまとめた傍聴記をインターネットのブログで公開。被告は別のヤフーであり、傍聴記を無断で掲載したブログを公開。 原告は著作権侵害を主張し、ヤフーをプロバイタ責任制限法に基づき、ブログ発信者の情報開示と、ブログ記事の削除を求めた。→判決で傍聴記は「著作物」に当たらないとした。 原告は創意工夫して、検察官と証人の答えとを独自の観点で分類、構成して要約文を作成したとしたが、「事実の伝達にすぎない」として創作性が認められないとした。
全文(裁判所へのリンク)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080718104623.pdf


(注4)
著作権法 (第10条第2項)
(著作物の例示)
第十条  この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二  音楽の著作物
三  舞踊又は無言劇の著作物
四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五  建築の著作物
六  地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七  映画の著作物
八  写真の著作物
九  プログラムの著作物
2  事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

 

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