IPWO 矢澤知財行政書士事務所
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一太郎訴訟考 (いちたろうそしょうこう)
2005.02.16
松下が一太郎を特許権侵害で訴え、一審勝訴
(
H17. 2. 1 東京地裁 平成16(ワ)16732 特許権 民事訴訟事件
)
この訴訟の余波が出ている。
それを要約するならば、大松下が小ジャストシステムを虐(いじ)めているというものである。
また、日本語ワープロの希望の星を消すなと。
しかも一太郎の使用者は一般人や法人の従業員など購入した者なので、使用者=侵害者となり、結果として松下は一般消費者を敵に回しているという図式になる。
この特許は、画面上のヘルプ機能を使って説明を求める際に、ヘルプ画面を開いてから質問するのではなく、ヘルプアイコンを知りたいアイコンの上に持って行くだけで内容を表示させるようにした技術。
言ってみれば文字入力に代えて絵のみの操作で質問の答えを得るというものである。
(
出願平成元年10月31日、特許第2803236号
)
今では普通に思われる技術であるが、松下の出願当時は新しい考えであり、新規性が認められて、特許になっているものである。
従って、松下としては特許権を正当に行使したにすぎないわけである。
しかし10年前であれば、おそらく訴訟沙汰にはならなかったかと思われる。
そもそも企業における特許訴訟は、外国企業から訴えられることが主であった。
国内企業同士では、特許をお互いに技術提携の武器として使うことはあっても、消費者に直接影響するような争訟を起こすことは多くないという認識である。
そのような訴を起こされるとすれば、追いつめられた結果としてのものではなかっただろうか。
(例えば、シャープがイオンを訴えた事件があった。 このときは、イオンが独占販売した安価な台湾製液晶TVが、シャープの特許権を侵害していたというものである。 シャープとしては、これを看過すれば自社の製品の売り上げ減につながり、社の存亡にもかかわる一大事としてとらえたに違いない。 この時はイオンが過剰反応してシャープの製品を取り扱わないという対抗策を表明した。 冷静に見ればイオン側は強い態度をとれる事態ではなかったはずである。)
しかし、今回の松下の訴では、特に社の存亡にかかるような技術とは言えず、ましてやワープロソフトを売っているわけでもないので、自社製品の売り上げにはかかわらないものである。
したがって、いわゆる知財重視の対外的政策としての社の方針がまずあり、たまたま知財部の人間が「こういうものがあります」と、掘り起こしてきたような印象がある。
仮にそうであれば、それは一面として、とても重要なことであり、一般消費者にも特許を啓蒙させる十分な効果があって、知財部門としては金星となるのかもしれない。
しかし、それにしても強気な行動だと思う。 何も一太郎を廃棄させなくてもよいではないか。
実際に消費者側から、松下に対し遺憾の意を表明するサイトも表れた。
曰く松下製品の不買運動で抗議するというものである。
http://miuras.net/matsushita.html
あの松下幸之助さんが存命であれば、今回のことに関しなんと言ったであろうか。
しかし、その精神を継いだ松下が起こした訴であるのだから、今回の強気の戦略は新たな知財活動の流れとして尊重したい。
もっとも今回の判決の前には、
H16.10.29 東京地裁 平成15(ワ)27420 特許権 民事訴訟事件
H16. 8.31 東京地裁 平成15(ワ)18830等 特許権 民事訴訟事件
などがあったものである。
これに対する一太郎側の応戦としては、控訴して特許が無効であると主張することはもちろんであるが、特許に抵触しない新たな技術をもった新ソフトを開発することに力を注ぐことになろう。
それが、特許法の目的にかなうものであるといわざるを得ない。
そして今度は一太郎が松下を訴えることになるかもしれない。
正当な権利行使として。
*「一太郎」はジャストシステム社の登録商標です。
* 松下とは、松下電器産業株式会社のことです。
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