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 【映画の著作権保護期間70年は、長すぎるか】

2006-06-24 (土)

【映画の著作権保護期間70年は、長すぎるか】

 最近は映画DVDの販売価格が安くなり、レンタルするより買った方が安いようなものまである。
 不法コピーの横行や、インターネットでのファイル交換などへの対抗上無理をしているのではないかとさえ思える。
 ある販売会社は、著作権が切れた1950年代の大作映画を続々とDVD化し、許諾料を払う必要が無い分、さらに安く販売でき、売れ行きも良いようだ。

 ところが、著作権の切れたDVDを販売していた、この会社が訴えられた。
 争点となったのは、1953年に公開された映画に関する著作権の存続期間である。
この年は、「ローマの休日」「シェーン」といった著名な名作が集中している年だという。

 映画が製作された当時の著作権保護期間は、公開から50年である。
 たとえば1953年1月10日に公開された映画の存続期間を計算すると、公開の翌年1954年1月1日(注1)から50年間、すなわち2003(平成15)年12月31日までとなる。

 2006年の現在、一見すると何も問題なさそうであるが、実は著作権法が存続期間満了前に改正され、映画の著作物の保護期間が70年に延長されていたのだ。
 そして、この改正された法律(新法)の施行日が平成16年1月1日である。

(旧法による保護期間)
─────50年───────→ 平成15年12月31日まで
   
平成16年1月1日から ←───20年───────→
(新法により延長された保護期間)

 ちょうど旧法での終期と、新法での始期とが、つながっているのだ。
 こういう場合に、当事者双方が都合良く解釈すれば、販売する方は50年で終わったことにしたいし、著作権者は切れていなかったと主張するだろう。

 著作権法には経過措置として、満了したものには適用しないとある。(注2)
 したがって、1953年作品映画DVDの無許諾販売は、保護期間が切れた映画の複製物販売に該当し、合法に見える。

 しかし、訴訟になったということは、法律解釈に疑義があったということだ。
 文化庁の判断によれば、こういう場合保護期間は接していて、切れていないという判断をしているようだ。
 もっとも裁判官がどう判断するかはわからない。

 また、70年も保護する必要はないという学者の言もあるようだ。
 さらには、国際的慣習といったことも判断材料になるだろう。(注7)

 だが、この70年という期間を考えた場合、他の知的財産法での保護期間と比較して、どうなのだろうか。
 特許法と比較すると、特許権は、通常は出願から20年、例外を加味しても25年(注4)から26年(注3)で保護期間が終わる。
 これに比べれば、著作権法上の映画の保護期間70年は、特許権の保護期間の倍以上となり十分に手当されていると言える。

 ところが、これを著作権法の中で比較してみると、そうでもないということになる。
 たとえば、ある人が20歳のときに一遍の詩を作り、これが雑誌に載り、本になったとする。
 探せば実際にいくらでもありそうな例だ。
この場合の一遍の詩や本の著作権保護期間を考えると、著作者の死後50年(注5)ということになる。
 死後ということであるから、生きている間は保護され続ける。

 仮に90歳まで生きれば、20歳から90歳までの70年と、死後の50年とで保護期間は合計120年になる。

 国際的に見れば、死後80年などという国もあり(注)、この場合は合計で150年にわたり保護されることになる。

 我々の作った詩や、絵や、論文、音楽など著作物は、こんなにも長く保護されるのである。
 映画が安く買えることも悪くは無いが、著作権によって得られた収益で、さらに素晴らしい映画を提供してほしいとも思う。

 保護期間の延長は、我々自身の利益とも成り得るのだから、一概(いちがい)に長いと考えずに我々一人一人が、思想または感情を創作的に表現した著作物を生み出し、我々一人一人が、著作権による恩恵を享受したいものだ。(注6)



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注1: 著作権法 第五十七条 抜粋 ..期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。

注2: (平成一五年六月一八日法律第八五号) 抜粋
(施行期日)
第一条  この法律は、平成十六年一月一日から施行する。
(映画の著作物の保護期間についての経過措置)
第二条  改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。
 
注3: 優先権主張制度の利用

注4:特許法 第六十七条の二 抜粋 (存続期間の延長登録)
特許権の存続期間の延長登録の出願をしようとする者は、...次に掲げる事項を記載し
三  延長を求める期間(五年以下の期間に限る。)
 
注5:(保護期間の原則)著作権法 第五十一条 抜粋
 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後五十年を経過するまでの間、存続する。

注6:著作権法 第二条  抜粋
 著作物とは 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
注7:憲法 抜粋
第98条 条約及び国際法規の遵守
(2)日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
 
注8: 各国の著作権保護期間 
 著作者の死後80年 コロンビア
 著作者の死後75年 メキシコ
 著作者の死後70年 米国、英国、イタリア、スイス、スペイン、デンマーク、ドイツ、トルコ、ナイジェリア、ノルウエー、ハンガリー、フィンランドフランス、ブラジル、ベルギー、ペルー、ルクセンブルグ、ルーマニア
 著作者の死後60年 インド
 (参考:著作権ハンドブック 第5版 [社]著作権情報センタ− )
 
 

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