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 不具合情報は重要な財産 

2006年 6月 11日(日)

 エレベーターの事故があり、製造元が注目されている。
以前から不具合が多数あったとも報道されている。
事故に至ったのは、設計、製造、保守などに起因する隠れた瑕疵(かし)があったためであろうが、このような事故に至る前の不具合に関する情報が、活用できていなかった印象がある。

たとえ保守会社が変わっても、製造元は細かく情報を発信する責務があるだろう。
それどころか、信用を落とさないためにも積極的に伝えるべきものである。
事故が起きてしまえば、製造責任が追求され、少なからぬ不利益があるのだから。

逆に考えれば、製造元の責任が追求されなければ、いわゆる作りっぱなしになり、品質の向上よりも採算性が優先されるだろう。

そういう意味では、現在の日本では事故に対する追求が厳しく、製造、保守両者の責任が存分に問われる社会になっている。

ところで不具合情報は、不具合という名がつくものの、これを事前に得られれば防止策を取れ、ライバル会社でなくとも非常に有益な情報である。
すなわちノウハウとしての知的財産性がある。
同じ轍(てつ)を踏まずに、良い道を進めるのだから。

しかし、車であれば、リコールなど法的に不具合の開示義務が課せられているものの、こと電気製品などでは危険性がなければそこまでの責務は問われず、一般には知るよしもない。

今月の「日経ものづくり」(日経BP社)には、そのような一般に知られない不具合によって、製品の設計が変更されているという興味深い記事がでていた。

それは、電器製品には必ず用いられる部品に欠陥があり、しかも機能を失ったり、内部を短絡させるおそれがあるため、故障が致命的になるというものだ。

その部品というのは、電解コンデンサである。 
しかも信頼性を重要視するコンデンサメーカーでは使用しない、4級アンモニウム塩を含む電解液を使った電解コンデンサが不具合を起こしていた。

この電解液を採用したコンデンサメーカーは、電解液が安いため使用し、当然製品価格も安くできた。

昔からコンデンサの不具合は、一定の頻度で生じていたのであるが、特に頻度が高い部品を供給してしまったということだ。

そして、コストを落とすことを命題とする電気機器の設計部署が、この時限爆弾をかかえた部品に飛びついてしまったわけだ。

こうしたコンデンサの不具合の危険性から、話題の新ゲーム機のデザインを電源内蔵型にするか、外部電源アダプタ式にするかを考慮するまでに影響しているという。

当然出荷時期にも大きく影響するであろう。

実は、コンデンサの不良には個人的にも思い当たる経験がある。
2年ほど前に選んで購入したDVDレコーダーが、すぐに壊れたのだ。

ビデオテープとDVDとを兼ね備えた製品としては、当時では一番良かったと思って購入した。

しかし、あまり使わなかった(テープを使用する際等の予備機であった)にもかかわらず、数ヶ月で故障した。
不審な表示をして、立ち上がらないのだ。
当然保証で修理(量販店まで持参)したが、コンデンサ交換とあった。
やれやれと思ったものの、数週間でまた同様の不良状態となった。
故障の際の不手際だろうと思い、簡単な確認をすべく分解したところ、電源部のコンデンサに液漏れしたような跡があった。
コンデンサ
(写真の左が不具合品、 右は良品、どちらも日本製)
 
結局、修理で交換されたコンデンサの隣のコンデンサにも不具合があったのだ。
この情報(こんなに早くコンデンサが不良になる)が早く伝わっていれば、早めに回収するなどして対処できたであろうに、レコーダーの製造会社は、信頼を落とし、多大な損失も蒙(こうむ)ったのではないだろうか。
(同様の不具合が多数あった模様)


コンデンサはさまざまな機器に使用される。
不具合が多いという情報が早めに明らかにされていれば、部品の不具合を想定した設計がなされ、各分野で故障や事故が減るだろう。

情報一つで損害を免れたり、蒙ったりする。
そのような意味で、不具合情報は高度の企業秘密(営業秘密)に属するものであり、りっぱな知的財産である。

しかし電気機器の故障は経済性だけでなく、安全性に関わることでもあるので、秘密にせず大いに公開してもらいたいものだ。


(注)エレベータの故障を、コンデンサの不良と推定したものではありません。 単に情報が伝わっていないという例で用いたものです。
(注)DVDレコーダーの不良コンデンサが、4級アンモニア塩を使用していたかどうかは不明です。
 また、電解コンデンサの信頼性は使用環境、設計条件等によって影響されます。
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